【大人】癇癪の原因と対処法！感情コントロールの苦手さを克服するには

なぜ自分はこんなに怒りっぽいんだろう」「些細なことで感情が爆発してしまうのは、もしかして自分だけ？」

もしあなたが、大人になってからの癇癪に悩んでいるのであれば、それは決して珍しいことではありません。感情のコントロールが難しいと感じる背景には、様々な要因が隠されていることがあります。それはストレス、環境、あるいは発達特性によるものかもしれません。

本記事では、大人の癇癪に見られる具体的な特徴から、その原因、そして病院での診断や、日々の生活で実践できる効果的な対処法まで、癇癪持ちの大人が抱える悩みを多角的に解説します。この記事を通して、ご自身の感情と向き合い、より穏やかな日々を送るための第一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。

1. 大人の癇癪とは？ child tantrumの読み方

「癇癪」という言葉を聞くと、幼い子どもが駄々をこねて泣き叫ぶ姿をイメージする方が多いかもしれません。しかし、感情のコントロールが難しく、怒りや苛立ちを爆発させてしまう状態は、大人にも見られます。

1-1. 癇癪（かんしゃく）の定義

癇癪とは、一般的に「自分の思い通りにならないことに対し、怒りや不満を爆発させる感情的な発作」と定義されます。子どもにおいては発達段階の一環として見られることが多いですが、大人においては、ストレス、疲労、精神的な不調、あるいは特定の神経発達症の特性などが背景にある場合があります。

大人の癇癪は、子どもに見られるような「床に転がりながら泣き叫ぶ」といった直接的な形ではなく、以下のような形で現れることが多いのが特徴です。

• 激しい口論や暴言
• 物を叩いたり、投げたりする行為
• 突然の怒りの爆発とその後の後悔
• 周囲に威圧感を与える態度
• 感情の起伏が激しく、周囲を振り回してしまう

これらの行動は、本人が意図して行っているわけではなく、感情の処理やコントロールが一時的に困難になっている状態であると考えられます。

1-2. 癇癪の読み方

癇癪は「かんしゃく」と読みます。漢字の「癇」は「腹を立てる」「怒りっぽい」といった意味合いを持ち、「癪」は「神経の病気」「発作」といった意味合いがあります。この二つの漢字が合わさることで、感情が爆発する様子や、それが発作的に起こる状態を表現していると言えるでしょう。

2. 大人の癇癪に見られる特徴

大人の癇癪は、その表現方法や現れる状況において多様なパターンがあります。しかし、共通して見られるいくつかの特徴が存在します。ここでは、癇癪持ちの大人に見られる代表的な特徴を詳しく見ていきましょう。

2-1. 怒りやイライラが爆発しやすい

大人の癇癪の最も顕著な特徴の一つは、些細な出来事や予期せぬトラブルに対して、怒りやイライラが制御不能なほどに爆発しやすい点です。例えば、以下のような状況で感情が爆発してしまうことがあります。

• 計画通りに進まない時: 仕事やプライベートで、自分の立てた計画が少しでも狂うと、途端に激しい苛立ちを感じ、周囲に当たり散らしてしまう。
• 他者のミスや不手際: 同僚や家族が些細なミスをしただけで、必要以上に怒り、責め立ててしまう。
• 予期せぬ中断や変更: 集中している最中に声をかけられたり、急な予定変更があったりすると、強い不快感や怒りを感じる。
• 満員電車や渋滞など、思うようにならない状況: ストレスが蓄積しやすい環境で、感情の許容量を超えてしまい、独り言のように不満をぶつけたり、攻撃的な態度を取ったりする。

これらの感情の爆発は、本人にとっても苦痛であり、周囲との人間関係に深刻な影響を与える可能性があります。感情の引き金となるものが非常に小さく、他人から見ると「なぜそんなに怒るの？」と理解されにくい場合も少なくありません。

2-2. 感情の切り替えが苦手

癇癪持ちの大人に共通して見られるのが、一度沸き上がった感情をなかなか切り替えられないという特性です。怒りやイライラが収まるまでに時間がかかり、その間ずっと不機嫌な状態が続いてしまうことがあります。

例えば、朝に些細なことでイライラすると、その日の午前中いっぱい、あるいは一日中その感情を引きずってしまうといったケースです。気分転換を図ろうとしても上手くいかず、思考が特定のネガティブな感情に囚われやすくなります。

このような感情の切り替えの難しさは、以下のような行動や心理状態につながることがあります。

• 過去の出来事を何度も蒸し返す: 以前の出来事を思い出して再び怒りを覚え、その場にいない人や過去の自分に対して苛立ち続ける。
• 不機嫌な態度が続く: 周囲に不機嫌な雰囲気をまき散らし、結果として人間関係を悪化させる。
• 集中力の低下: 感情に囚われることで、仕事や日常生活に集中できなくなり、生産性が低下する。
• 自己嫌悪に陥る: 怒りが収まった後に、自分が感情をコントロールできなかったことに対して深い自己嫌悪や後悔を感じる。

感情の切り替えが苦手な背景には、感情を処理する脳の機能や、ストレスへの対処能力の問題が関係している場合があります。

2-3. 衝動的な言動

感情の爆発と密接に関連しているのが、衝動的な言動です。怒りやイライラが高まると、考えずに言葉を発したり、行動を起こしてしまったりすることがあります。具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

• 大声で怒鳴る、罵倒する: 相手の感情や状況を顧みず、衝動的に大声を出したり、暴言を吐いたりする。
• 物を叩く、投げる、壊す: 感情を物にぶつけ、衝動的に物を破壊する行為。
• 無計画な行動: 怒りのあまり、仕事や約束を突然放棄したり、その場を立ち去ったりする。
• 後で後悔するような発言: 感情に任せて言ってはいけない言葉を発してしまい、後になって深く反省する。

これらの衝動的な言動は、周囲の人々を驚かせ、怖がらせることがあり、信頼関係の喪失につながる可能性が高いです。特に、職場や公共の場では、社会的な問題に発展することもあります。

衝動性は、感情を一度立ち止まって理性的に判断するプロセスが機能しにくい状態であり、特定の神経発達症の特性としても見られることがあります。

2-4. 家族にだけキレるパターン

「外では我慢できるのに、なぜか家族にだけは感情をぶつけてしまう」というのも、大人の癇癪によく見られるパターンです。職場や友人関係では模範的な振る舞いをする一方で、家に帰ると些細なことで配偶者や子どもに激しく怒鳴ったり、八つ当たりしたりするというケースです。

この背景には、以下のような心理が考えられます。

• 安心感と甘え: 家族は「何を言っても、どんな態度を取っても受け入れてくれるだろう」という無意識の甘えや安心感があるため、感情のタガが外れてしまう。
• ストレスの蓄積: 日中に社会生活で溜まったストレスや不満を、最も安全だと感じる家庭内で発散しようとする。
• 感情表現の学習: 幼少期に家族関係の中で、感情を爆発させることが許容される、あるいはそれが問題解決の一手段として学習されてしまった可能性。
• 認知の歪み: 家族に対してのみ過度に批判的になったり、期待が高すぎたりする認知の歪みがある場合。

この「家族にだけキレる」というパターンは、家庭内の雰囲気を悪化させ、家族関係に深い亀裂を生じさせる可能性があります。特に、子どもがそのような状況を日常的に目の当たりにすると、精神的な発達に悪影響を及ぼすことも少なくありません。家族のサポートも重要ですが、本人自身がこの問題を認識し、改善に向けて行動することが不可欠です。

3. 大人が癇癪を起こす原因

大人が癇癪を起こす原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。ここでは、主な原因として考えられるものを具体的に解説します。

3-1. ストレスや精神的な負担

現代社会において、ストレスは多くの人の心身に影響を与えています。大人の癇癪の最も一般的な原因の一つが、このストレスの蓄積や精神的な負担の増大です。

人間は、ストレスを感じると「闘争・逃走反応」と呼ばれる防衛本能が働き、攻撃的になったり、イライラしやすくなったりします。適度なストレスは成長の糧にもなりますが、過度なストレスが慢性的に続くと、感情をコントロールする脳の機能が低下し、些細なことでも感情が爆発しやすくなるのです。

具体的には、以下のような状況が精神的な負担となり、癇癪の引き金となることがあります。

• 仕事のプレッシャーや過労: 納期に追われる、人間関係の悩み、長時間労働、責任の重さなどが精神的な疲弊を引き起こす。
• 人間関係の悩み: 職場、友人、家族間での衝突や不満、孤立感などがストレス源となる。
• 経済的な問題: 家計の圧迫、将来への不安などが精神的な余裕を奪う。
• 健康問題: 慢性的な身体の不調、睡眠不足、病気などが感情の安定性を損なう。
• 環境の変化: 引越し、転職、結婚、育児、介護など、ライフステージの変化に伴う適応ストレス。
• 完璧主義や理想の高さ: 常に完璧を求め、それが達成できないことに強い不満や怒りを感じる。
• 抑圧された感情: 日常的に感情を抑え込んでいると、それが蓄積され、限界に達した時に爆発してしまう。

これらのストレス要因が複合的に作用することで、感情の許容量が低下し、普段ならやり過ごせるような出来事でも、癇癪として表面化してしまうのです。ストレスマネジメントは、大人の癇癪を軽減するために非常に重要な要素と言えます。

3-2. 発達障害との関連

近年、発達障害（神経発達症）が、大人の癇癪と関連しているケースがあることが広く認識されるようになりました。発達障害は、生まれつきの脳機能の特性により、物事の認知や感情の処理、コミュニケーションなどに特性が見られる状態です。これによって、社会生活において困難を感じ、ストレスを抱えやすくなるため、結果として癇癪という形で感情が爆発してしまうことがあります。

特に、以下の二つの発達障害が、大人の癇癪と関連が深いとされています。

3-2-1. ADHD（注意欠如・多動症）との関連

ADHD（Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder：注意欠如・多動症）は、主に「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性が、子どもの頃から継続して見られる発達障害です。これらの特性が、大人の癇癪にどのように影響かを見ていきましょう。

3-2-1-1. ADHDの衝動性

ADHDの特性の中でも、衝動性は癇癪と最も直接的に関連が深いと考えられています。衝動性とは、将来の結果を十分に考えずに、目の前の欲求や感情に突き動かされて行動してしまう特性です。

• 感情のブレーキが効きにくい: 怒りやイライラといった感情が湧き上がると、それを一度冷静に評価したり、適切な表現方法を考えたりする前に、感情に任せて怒鳴りつけたり、物を投げたりといった行動に出てしまうことがあります。
• 待つことが苦手: 自分の番が回ってこない、要求がすぐに満たされないといった状況で、我慢ができずに感情が爆発するケースも考えられます。
• 計画性の欠如からくるトラブル: 計画性が低いことで日常生活でミスやトラブルが多くなり、その度に自己嫌悪やフラストレーションが蓄積され、些細なことで癇癪につながることもあります。

3-2-1-2. ADHDのイライラ

ADHDの人は、不注意や多動性、衝動性といった特性から、日常生活で様々な困難に直面しやすく、これが慢性的なイライラを引き起こす原因となります。

• タスクの処理困難: 仕事や家事において、集中力が続かずミスが多い、締め切りを守れないといったことが続き、自己肯定感が低下し、ストレスが蓄積される。
• 時間管理の難しさ: 時間の見積もりが苦手で、常に時間に追われたり、遅刻が多かったりすることで、自己嫌悪や周囲からのプレッシャーを感じる。
• 感覚過敏: 特定の音、光、匂い、肌触りなどに過敏に反応し、不快感やイライラを感じやすい場合がある。例えば、他人の貧乏ゆすりや時計の針の音が異常に気になり、怒りがこみ上げてくる、といったケースです。
• 感情のディスレギュレーション（調節不全）: ADHDの特性の一つとして、感情の強度が極端になりやすく、一度怒り出すと非常に激しく、なかなか収まらないことがあります。これは、感情を適切に調節する機能が働きにくい状態です。

3-2-1-3. ADHDの大人にみられる症状

ADHDの大人にみられる主な症状は多岐にわたりますが、癇癪と関連する可能性のあるものを以下にまとめます。

これらの症状が日常生活に支障をきたし、本人や周囲のストレスが高まることで、癇癪という形で感情が爆発しやすくなると考えられます。

3-2-2. ASD（自閉スペクトラム症）との関連

ASD（Autism Spectrum Disorder：自閉スペクトラム症）は、「対人関係や社会的なコミュニケーションの困難」「特定のものやことへの強いこだわり」「感覚の特性」が主な特徴として現れる発達障害です。これらの特性が、大人の癇癪にどのように影響するかを見ていきましょう。

3-2-2-1. ASDの特性と癇癪

ASDの人は、以下のような特性から社会生活で困難を感じやすく、それがストレスとなり癇癪につながることがあります。

• コミュニケーションの困難:
  • 暗黙のルールの理解が難しい: 社会的な文脈や行間を読むのが苦手で、他人の意図を誤解したり、自分の意図が伝わらなかったりすることで、フラストレーションがたまる。
  • 感情の表現や理解の難しさ: 自分の感情を言葉でうまく表現できなかったり、他人の感情を読み取ることが苦手だったりするため、人間関係でのすれ違いが生じやすい。これにより、誤解や不満が募り、感情が爆発することがあります。
• 感覚の特性（感覚過敏・感覚鈍麻）:
  • 感覚過敏: 特定の音、光、匂い、肌触りなどが非常に不快に感じられることがあります。例えば、オフィスでの雑音、蛍光灯の光、特定の素材の服などが強いストレスとなり、我慢の限界を超えると癇癪につながる可能性があります。
  • 感覚鈍麻: 痛みや暑さ・寒さに気づきにくい一方で、特定の刺激を求めすぎることがあります。
• 強いこだわりとルーティン:
  • ルーティンの崩壊への抵抗: 決まった手順や日課が突然変更されると、強い不安や混乱を感じ、パニック状態になることがあります。これが怒りや癇癪として現れることがあります。
  • 興味関心の限定性: 興味のある分野には深く集中できる一方で、それ以外のことに柔軟に対応するのが難しい場合があります。自分のこだわりを邪魔されることや、理解されないことに強い怒りを感じることもあります。
• 状況の変化への適応の難しさ: 予測できない出来事や環境の変化に非常に強いストレスを感じやすく、適応に困難を伴います。これが感情の不安定さにつながり、癇癪を引き起こすことがあります。

3-2-2-2. ASDの大人にみられる症状

ASDの大人にみられる主な症状は多岐にわたりますが、癇癪と関連する可能性のあるものを以下にまとめます。

ASDの特性を持つ人は、これらの困難から「生きづらさ」を感じやすく、その結果として感情の調節が難しくなり、癇癪という形で表現されることがあります。発達障害の診断と適切な支援は、癇癪の軽減に大きく貢献する可能性があります。

3-3. その他の原因

ストレスや発達障害以外にも、大人の癇癪には様々な原因が考えられます。複数の要因が複合的に作用していることも少なくありません。

• 精神疾患:
  • うつ病: 抑うつ状態だけでなく、イライラ感や怒りっぽさが症状として現れることがあります。集中力や判断力の低下も伴い、些細なことで感情が爆発しやすくなる場合があります。
  • 不安障害: 常に不安や緊張を抱えている状態が続くと、心の余裕がなくなり、怒りや苛立ちを感じやすくなります。パニック発作の一環として、感情のコントロールが難しくなることもあります。
  • 双極性障害（躁うつ病）: 気分が非常に高揚する「躁状態」の際に、過剰な活動性、易怒性（いどせい：怒りっぽいこと）、衝動的な行動が見られることがあります。一方で、気分が沈む「うつ状態」でもイライラが生じることがあります。
  • パーソナリティ障害: 特定のパーソナリティ障害（例：境界性パーソナリティ障害）では、感情の不安定さ、衝動性、人間関係の不安定さが顕著であり、激しい怒りの爆発や癇癪が頻繁に見られることがあります。
• ホルモンバランスの変化:
  • PMS（月経前症候群）/PMDD（月経前不快気分障害）: 女性の場合、月経前にホルモンバランスが大きく変動することで、イライラ、怒りっぽさ、気分の落ち込みといった精神的な症状が強く現れることがあります。PMDDはPMSよりも症状が重く、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
  • 更年期障害: 男女ともに、更年期にはホルモンバランスの変化により、イライラ、不眠、倦怠感といった精神的・身体的症状が現れやすくなります。
• 身体的な不調や病気:
  • 睡眠不足: 慢性的な睡眠不足は、脳の機能を低下させ、感情のコントロール能力を著しく損ないます。イライラしやすくなり、些細なことでも感情が爆発しやすくなります。
  • 貧血や甲状腺機能低下症: 体力や気力の低下、集中力の散漫などが生じ、それが精神的な負担となり、感情が不安定になることがあります。
  • 脳の器質的疾患: 稀ではありますが、脳腫瘍や頭部外傷、脳卒中などによって、感情をコントロールする脳の部位に損傷が生じた結果、易怒性や衝動性が高まるケースも考えられます。
• 過去のトラウマや未解決の感情: 幼少期の虐待、ネグレクト、または大人になってからの大きなショック体験などが、心に深い傷を残し、特定の状況で感情がフラッシュバックして怒りとして現れることがあります。過去の感情的な問題が適切に処理されていない場合、それが現在の癇癪として表面化することがあります。
• アルコールや薬物の影響: アルコールの過剰摂取や特定の薬物の使用・離脱症状が、感情の抑制を困難にし、衝動的な言動や癇癪を引き起こすことがあります。

これらの原因は一つだけでなく、複数重なり合っていることが多いため、専門家による適切なアセスメントが重要です。

4. 癇癪持ちの診断

「自分は癇癪持ちなのではないか」「感情のコントロールが本当に難しい」と感じた場合、専門機関での診断を検討することも重要です。自己判断には限界があり、正確な診断によって、適切な対処法や治療に繋がる可能性があります。

4-1. 癇癪持ちの診断基準

「癇癪持ち」という明確な診断名は、精神医学の診断基準には存在しません。しかし、その背後にある精神疾患や発達障害、あるいはその他の心理的・身体的要因を診断し、その症状の一部として癇癪が評価されることはあります。

精神疾患の診断には、アメリカ精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル（DSM-5）』や、世界保健機関（WHO）が発行する『国際疾病分類（ICD-10/11）』などの国際的な診断基準が用いられます。これらの基準に基づいて、医師は症状の種類、頻度、持続期間、社会生活への影響などを総合的に評価し、診断を行います。

例えば、以下のような診断名で、癇癪（感情の爆発）が症状の一部として挙げられることがあります。

• 間欠性爆発性障害（Intermittent Explosive Disorder）: 衝動的な攻撃行動が反復して起こり、その行動が誘発要因に比して不釣り合いに過剰である場合に診断されることがあります。通常、この障害を持つ人は、攻撃性の前に緊張や興奮を経験し、攻撃後は後悔や自責の念を抱くことが多いです。
• ADHD（注意欠如・多動症）: 前述の通り、衝動性や感情の調整困難（ディスレギュレーション）が癇癪として現れることがあります。
• ASD（自閉スペクトラム症）: 感覚過敏や変化への適応困難などから、感情が爆発することがあります。
• 双極性障害: 躁状態や混合状態において、易怒性や衝動性が高まることがあります。
• うつ病や不安障害: 慢性的なイライラ感や怒りっぽさが症状として現れることがあります。
• パーソナリティ障害: 特に境界性パーソナリティ障害では、感情の不安定性や衝動性が特徴的です。

診断のプロセスでは、医師による詳細な問診（症状の具体的な内容、いつから始まったか、どのような状況で起こるか、生活への影響など）、家族からの情報収集、心理検査（必要に応じて）、身体検査などが行われます。自己診断ツールやインターネット上の情報だけで判断せず、必ず専門医の診察を受けることが重要です。

4-2. 病院・専門機関の受診

大人の癇癪に悩んでいる場合、どの専門機関を受診すれば良いのか迷うこともあるかもしれません。主な受診先は以下の通りです。

• 精神科・心療内科:
  • 感情のコントロールが難しい、イライラが続く、抑うつ状態があるなど、精神的な不調が主な原因と考えられる場合に適しています。
  • うつ病、不安障害、双極性障害、パーソナリティ障害などの診断と治療（薬物療法や精神療法）を受けることができます。
  • 初診時には、現在の症状、これまでの経緯、家族歴、生活状況などについて詳しく問診が行われます。
• 発達障害専門クリニック:
  • ADHDやASDの特性が癇癪の背景にあるのではないかと考える場合、専門のクリニックを受診することで、より詳細な検査や診断を受けることができます。
  • 診断だけでなく、発達障害の特性に合わせた生活上の工夫や、カウンセリング、必要に応じて薬物療法などの支援を受けることができます。
  • 発達障害の診断には、専門的な知識と経験が必要なため、地域の発達障害支援センターなどに相談して、信頼できる医療機関を紹介してもらうのも良いでしょう。
• カウンセリングルーム:
  • 精神疾患の診断がついていなくても、感情のコントロール方法を学びたい、ストレス対処法を知りたいといった場合に有効です。
  • 臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングや心理療法を通じて、自身の感情や思考パターンを理解し、対処スキルを身につけることができます。
  • 医療機関に併設されている場合と、独立した施設として運営されている場合があります。

受診の際のポイント

• メモの準備: 症状がいつから、どのような状況で、どのくらいの頻度で起こるのか、ご自身が困っていること、試したことなどを事前にメモしておくと、スムーズに診察が進みます。
• 正直に話す: どんなに些細なことでも、恥ずかしがらずに正直に症状や困り事を話すことが、適切な診断と治療に繋がります。
• 家族の同席: 家族にだけ癇癪が向けられる場合など、可能であればご家族に同席してもらい、客観的な視点からの情報を提供してもらうことも有効です。

診断は、自分自身の状態を理解し、適切な対処法を見つけるための第一歩です。決して一人で抱え込まず、専門家のサポートを求めることを検討してみてください。

5. 大人の癇癪の対処法

大人の癇癪は、本人だけでなく周囲の人々にとっても大きな負担となります。しかし、適切な対処法を学び、実践することで、感情のコントロールは可能です。ここでは、自分でできるセルフケアと、周囲ができるサポート、そして専門家への相談について詳しく解説します。

5-1. 自分でできるセルフケア

感情の波を穏やかにするためには、日々の生活の中での自己理解と具体的な対処スキルの習得が重要です。

5-1-1. 怒りや感情のコントロール方法

感情のコントロールは一朝一夕で身につくものではありませんが、継続的な実践によって改善が見込めます。アンガーマネジメントの考え方を取り入れると効果的です。

5-1-1-1. 感情の波を乗りこなす

怒りが込み上げてきたときに、その感情にただ流されるのではなく、意識的に「一時停止」する習慣をつけることが大切です。

• 6秒ルール: 怒りのピークは長くても6秒程度と言われています。カッとなったら、まず心の中で6秒数えてみましょう。その間に深呼吸をしたり、その場から少し離れたりすることで、衝動的な行動を避けることができます。
• クールダウンテクニック:
  • 深呼吸: 意識的にゆっくりと深く息を吸い込み、吐き出すことで、心拍数を落ち着かせ、リラックス効果を高めます。
  • 場所を変える: 怒りのトリガーとなった状況や人から一時的に離れることで、冷静さを取り戻しやすくなります。
  • 水を飲む: 冷たい水をゆっくり飲むことで、気分転換になり、体をクールダウンさせる効果も期待できます。
  • リフレーミング: 出来事を別の角度から捉え直す練習をします。例えば、「なぜこんなことが！」ではなく、「これは問題を解決するチャンスかもしれない」と考えてみる、といった具合です。
• 「私メッセージ」で伝える: 相手を非難する「あなたメッセージ」（例:「あなたはいつも遅い！」）ではなく、「私」を主語にして自分の感情を伝える「私メッセージ」（例:「あなたが遅れると、私は心配になります」）を使うことで、感情的に衝突するのを避けることができます。

5-1-1-2. ストレス発散方法

ストレスは癇癪の大きな原因となるため、日頃からストレスを適切に発散する習慣を持つことが重要です。

• 適度な運動: ウォーキング、ジョギング、ヨガなど、体を動かすことはストレスホルモンを減らし、気分を安定させる効果があります。
• 趣味やリラクゼーション: 読書、音楽鑑賞、映画鑑賞、絵を描く、料理をするなど、自分が楽しめる活動に没頭する時間を持つことは、心の recharging につながります。アロマテラピーや瞑想、入浴などもリラックス効果が高いです。
• 質の良い睡眠: 睡眠不足は感情のコントロールを難しくするため、十分な睡眠時間を確保し、睡眠の質を高めることが大切です。寝る前のカフェイン摂取を控える、寝室の環境を整えるなどの工夫をしましょう。
• バランスの取れた食事: 栄養バランスの偏りは、心身の不調につながることがあります。規則正しく、栄養豊富な食事を心がけましょう。
• 自然との触れ合い: 公園を散歩する、森林浴をするなど、自然の中で過ごす時間は、心身を癒し、ストレスを軽減する効果があります。

5-1-1-3. 思考の癖を直す

感情の爆発には、特定の思考パターンが関係していることがあります。ネガティブな思考の癖を認識し、修正することで、感情の安定に繋がります。これは、認知行動療法の考え方に基づいています。

• 自動思考の認識: ストレスを感じたときに、無意識に頭に浮かぶネガティブな思考（自動思考）に気づく練習をします。「どうせうまくいかない」「自分はダメな人間だ」「みんな自分を嫌っている」といった思考パターンです。
• 思考の記録: 日記やメモ帳を使って、怒りを感じた時の状況、その時に考えたこと、感じた感情、その後の行動を記録してみましょう。これにより、自分の怒りのパターンや、特定の思考が感情を悪化させていることに気づくことができます。
• 思考の歪みへの挑戦: 記録した思考が、本当に客観的な事実に基づいているのかを問い直します。例えば、「みんな自分を嫌っている」という思考に対して、「本当にみんながそう思っているのか？具体的にそう言われたか？」と自問自答し、より現実的でバランスの取れた考え方を探します。
  • よくある思考の歪みの例
  • 全か無かの思考: 白か黒か、成功か失敗か、といった極端な考え方。
  • 感情的決めつけ: 感情が真実だと信じ込む（例:「イライラするから、きっと相手が悪い」）。
  • 過度の一般化: 一つの悪い出来事から全てが悪いと結論づける。
  • レッテル貼り: 自分や他人にネガティブなレッテルを貼る。
  • 心のフィルター: ポジティブな部分を無視し、ネガティブな部分ばかりに焦点を当てる。
• ポジティブなセルフトーク: 意識的に自分自身にポジティブな言葉をかけたり、励ましたりする習慣をつけましょう。

5-1-1-4. 衝動的な行動を抑える

衝動的な行動は、後で後悔する結果を招きがちです。衝動性が高まった時に、冷静さを保つための具体的な方法を身につけましょう。

• タイムアウト: 怒りの感情がコントロールできないと感じたら、その場を離れて別の場所に行く「タイムアウト」を試します。数分でも良いので、感情が落ち着くまで一人になる時間を作りましょう。
• 思考を中断する: 「ストップ！」と心の中で叫んだり、ゴムバンドを腕にはめて軽く弾いたりして、ネガティブな思考や衝動を物理的に中断するテクニックも有効です。
• 代替行動を準備する: 怒りを感じた時に、衝動的に何かをしてしまう代わりに、あらかじめ決めておいた建設的な行動に切り替える練習をします。例えば、「怒鳴りたくなったら、まず深呼吸をして、別の部屋に行く」といった具体的な計画を立てておくと良いでしょう。
• 問題解決スキルの向上: 日常の不満や困難に対して、感情的に反応するのではなく、具体的な問題解決の方法を冷静に考える練習をします。課題を細分化し、一つずつ解決策を探ることで、達成感を得られ、フラストレーションを減らすことができます。

これらのセルフケアは、継続することで徐々に効果が現れてきます。すぐに完璧にこなせなくても、少しずつでも実践を続けることが大切です。

5-2. 周囲ができること・サポート

癇癪持ちの大人を身近に持つ家族や友人にとって、どのように接すれば良いのかは非常に難しい問題です。感情の爆発に巻き込まれてしまったり、疲れ果ててしまったりすることもあるでしょう。ここでは、周囲ができることと、専門家へのサポートについて解説します。

5-2-1. 家族にだけキレる場合の対応

「外では我慢できるのに、家でだけ感情を爆発させる」というパターンは、家族にとって特に辛いものです。このような状況で家族ができることは、大きく分けて「本人への対応」と「自身のケア」の二つがあります。

本人への対応

• 安全の確保: まず、感情が爆発している最中は、身の安全（物理的・精神的）を確保することが最優先です。暴力的になる恐れがある場合は、その場を離れる、距離を取るなどして、エスカレートするのを防ぎましょう。
• 冷静な態度を保つ: 相手が感情的になっているときに、こちらも感情的になってしまうと、状況は悪化する一方です。できる限り冷静な態度を保ち、相手の感情に引きずられないように努めましょう。
• 「今」は話さない: 感情が最高潮に達している時に、冷静な議論を試みても効果は薄いです。むしろ火に油を注ぐことになりかねません。「今は話し合いが難しいから、落ち着いてから話そう」と伝え、一旦その場を離れる提案をしましょう。
• 境界線を引く: 相手の癇癪を全て受け入れることは、共依存の関係を生み、事態を悪化させる可能性があります。、「暴言は許容できない」「物を壊す行動は許さない」など、してはいけない行動に対する明確な境界線を伝えましょう。
• 本人の問題として認識させる: 癇癪は本人の感情コントロールの問題であることを本人に認識してもらうことが重要です。「あなたのせいで私は怒っている」というメッセージではなく、「あなたの感情の爆発によって、私（私たち）は傷ついている」という「私メッセージ」で伝えましょう。
• 改善への期待とサポートの提案: 癇癪が収まった後、冷静な時に「この状況を何とかしたい」という気持ちがあることを伝え、一緒に解決策を考えたり、専門機関への受診を促したりするなど、具体的なサポートを提案しましょう。

自身のケア

• 自分を責めない: 相手の癇癪は、あなたのせいではありません。自分を責めたり、一人で抱え込んだりしないことが大切です。
• 休息と気分転換: 感情的な負荷は非常に大きいものです。自分のための時間を作り、趣味やリラクゼーションなどで心身を休ませましょう。
• サポートグループや相談窓口の利用: 同じような悩みを抱える家族のためのサポートグループや、自治体の相談窓口、心の健康相談など、外部のサポートを積極的に利用しましょう。一人で悩みを抱え込まず、共有するだけでも心が軽くなることがあります。
• 専門家への相談: 必要であれば、家族自身もカウンセリングを受けることを検討しましょう。専門家から、適切な対応方法や、自身の心の健康を保つためのアドバイスを得ることができます。

5-2-2. 専門家への相談

自分でできるセルフケアや、周囲のサポートだけでは改善が難しい場合、専門家への相談は非常に有効な選択肢となります。

5-2-2-1. カウンセリング・心理療法

カウンセリングや心理療法は、専門家との対話を通じて、自身の感情や思考パターン、行動の背景を深く理解し、より適応的な対処スキルを身につけることを目的とします。

• 認知行動療法（CBT）: 感情の爆発につながるようなネガティブな思考の癖や歪みを認識し、より現実的でバランスの取れた思考パターンに修正していくことを目指します。怒りのトリガーを特定し、それに対する反応を変える練習も行います。
• 弁証法的行動療法（DBT）: 特に感情の不安定さや衝動性が顕著な場合に有効とされる療法です。感情の調節スキル、ストレス耐性スキル、対人関係スキルなどを学び、感情の波を乗りこなす方法を習得します。
• アンガーマネジメントトレーニング: 怒りという感情を適切に理解し、コントロールするための具体的なテクニックを学ぶトレーニングです。衝動的な怒りの爆発を防ぎ、建設的な方法で怒りを表現できるようになることを目指します。

5-2-2-2. 薬物療法

癇癪の背景に、うつ病、不安障害、双極性障害、ADHDなどの精神疾患や発達障害がある場合、医師の判断で薬物療法が用いられることがあります。

• 抗うつ薬: 抑うつ症状だけでなく、イライラ感や不安の軽減に効果がある場合があります。
• 気分安定薬: 双極性障害などで見られる気分の波を安定させる目的で用いられます。
• 抗不安薬: 不安や緊張が強く、それが癇癪の引き金となっている場合に、一時的に不安を軽減するために処方されることがあります。
• ADHD治療薬: ADHDの不注意、多動性、衝動性といった中核症状を改善することで、結果的に感情のコントロールがしやすくなる場合があります。

薬物療法は、症状を和らげ、精神療法がより効果的に行える状態に導くための補助的な役割を果たすことが多いです。薬の服用は必ず医師の指示に従い、勝手に量を調整したり中止したりしないようにしましょう。

5-2-2-3. 発達障害の専門医・クリニック

癇癪の背景に発達障害の可能性が高いと考える場合、発達障害を専門とする医師やクリニックを受診することが重要です。

• 診断と特性の理解: 専門医は、詳細な問診や心理検査を通じて、ADHDやASDの診断を行います。診断されることで、自身の特性を客観的に理解し、それが癇癪にどう影響しているのかを把握することができます。
• 特性に合わせた支援: 診断後には、それぞれの発達特性に合わせた生活上の工夫（例：スケジュール管理、環境調整、コミュニケーションスキルの練習など）や、適切なサポート（例：就労支援、ペアレントトレーニングなど）を受けることができます。
• 薬物療法の検討: ADHDの場合、必要に応じて薬物療法が検討されます。薬によって衝動性や不注意が軽減されることで、癇癪の頻度や強度も改善する可能性があります。
• オンライン診療の活用: 最近では、発達障害の専門医によるオンライン診療も増えています。地方に住んでいる方や、忙しくて通院の時間が取れない方でも、自宅から専門的な医療を受けることが可能になります。プライバシーが確保されやすく、通院の心理的負担が少ないというメリットもあります。ただし、オンライン診療ではできない検査などもあるため、必要に応じて対面診療も検討しましょう。

大人の癇癪は、一人で抱え込まず、適切なサポートを求めることで、必ず改善の道が開けます。自身の状況に合わせた最適な方法を見つけるためにも、専門家との連携を検討してみてください。

6. まとめ

大人の癇癪は、周囲を巻き込み、人間関係に大きな影響を与えるだけでなく、本人にとっても「なぜ自分はこんなに感情をコントロールできないのか」という深い苦悩と自己嫌悪をもたらすことがあります。しかし、癇癪は単なる「性格の問題」ではなく、ストレス、精神的な負担、あるいはADHDやASDといった発達特性など、様々な要因が複雑に絡み合って生じることが多いです。

本記事で解説したように、癇癪の背景にある原因を理解し、6秒ルールなどのセルフケアから、感情の波を乗りこなすアンガーマネジメント、ストレス発散方法、そして思考の癖を直す認知行動療法まで、多角的な対処法を実践することで、感情のコントロールは可能です。

もし、ご自身での対処が難しいと感じる場合や、癇癪の背景に発達障害や精神疾患の可能性を感じる場合は、一人で抱え込まずに精神科、心療内科、または発達障害専門クリニックなどの専門機関に相談することが非常に重要です。専門家による正確な診断と、カウンセリングや薬物療法といった適切なサポートは、より穏やかな日々を送るための大きな助けとなるでしょう。

大人の癇癪は改善できる問題です。この記事が、あなたの感情と向き合い、より豊かな人生を築くための一助となれば幸いです。

【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状態に応じた診断・治療については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。